はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 211 [迷子のヒナ]

見覚えのある馬車が目の前を通り過ぎて行った。

パーシヴァルは早足で通りの角まで行くと、遠のいていく馬車の背をじっと見送った。

ジャスティンが戻って来た。

馬車はまた角を曲がり、パーシヴァルの視界から消えた。パーシヴァルは目的の場所へ向け、ゆったりと歩を進めた。

今夜はジェームズに会えるだろうか?そう考えただけで足取りが重くなった。ジェームズはひどく怒っている。僕がグレゴリーに告げ口したのを、どこからか聞きつけたのだ。いったいどこの誰が告げ口を?

パーシヴァルは自分のことを棚に上げて憤った。

けどあの時はそうするしかないと思っていたのだから仕方がないだろう?まさかジェームズが、お互いの利益の為の協力を提案するなんて思っていなかったのだから。

彼は激怒して、僕を裸同然で緑の間から追い出した。おかげでダドリーのやつに廊下で犯されそうになった。あの時ハリーがやって来てくれなかったら、僕はまた以前の僕に戻っていただろう。

パーシヴァルはふと、幾度となく踏みしめた大理石の階段の途中で足を止めた。

こうなったら、今夜はクラブに来ている誰かをベッドへ誘ってしまおうか?ジェームズを好きになる前の僕に戻ってしまえば、きっと楽になれるだろうから。

いやいや。と、パーシヴァルはかぶりを振った。

もう以前の僕には戻れない。いくら身体が欲求不満で悲鳴を上げていたとしても。

「パーシヴァル!」

突如背後から名前を呼ばれ、パーシヴァルは飛び上がった。振り返るのが恐ろしくて、階段を駆け上がる。すぐさまドアは開き、伸びてきた腕に掴まれる前になんとか中へ滑り込めた。

うしろでドンドンとドアを叩く音と罵り声が聞こえる。蒼白の顔をドアマンに向けると、ご安心くださいといった使命感に満ちた目で見返された。

ブライスにつきまとわれていることは誰もが知っているようだ。パーシヴァルは乾いた笑い声をこぼした。ふしだらな僕を守ってくれるのはここの従業員くらいなものだろう。

その中にジェームズが入っていれば、もう何も怖い事はないのだが。

けど彼は、すごく怒っている。

つづく


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迷子のヒナ 212 [迷子のヒナ]

「お帰りなさいませ、旦那様。おや、お坊ちゃまはおやすみですか?まるでおくるみにくるまれた赤子のようですな」

突然の帰宅にもごくごく当たり前のように出迎えるホームズだが、驚くに値しない。ホームズはどのような状況下でも主人の一歩先を行くのだ。控えめな割には。

「そうだ。だから大きな声は出すな」

赤子でもこれほどまで寝まい。ヒナは道中のほとんどを寝て過ごした。ジャスティンがつられて眠ってしまう程、心地よさそうな寝息を立てて。

「あの時も、旦那様はこうしてお坊ちゃまをお抱きになって戻って来られました。そう考えると随分と成長されましたね」感慨深げなホームズ。

「成長?ヒナはあの頃からほとんど背も伸びてないし、やせっぽちのガリガリだぞ。これからはおやつは控えさせて、まともに食事をさせないとな」

「おっしゃるとおりです」ホームズは恭しく頭を垂れた。

「ああ、そうだ。ヒナは昨日十五歳になった」ニコラに今日はヒナの誕生日だと聞かされた時の衝撃がよみがえる。「今夜はヒナの好物を準備するようにシモンに言っておけ。時間がないとかぶつくさ文句でも言おうものなら、クビにしてやるから覚悟するんだな」

『まともな食事』と『ヒナの好物』は相容れないが、お祝いだ。仕方がない。

「おや、まあ。なんと!」ホームズもひどく驚いたようだ。その驚きがヒナの誕生日を知らなかったからなのか、ヒナが到底十五歳には見えないからなのか、どちらにせよこんなに喜ばしい事はないといった足取りで、玄関広間の奥へと消えた。

もう間もなく、屋敷中にヒナの誕生日が知れ渡る。ヒナの秘密がひとつ明かされる度に、ジャスティンは言い知れぬ焦燥感に襲われる。ヒナが自分の手から離れてしまいそうで、恐ろしかった。

「うぅん……」ヒナがキルトケットのなかで身じろいだ。薄茶色の長い睫を震わせ、美味しそうなキャラメル色の瞳が数時間ぶりに姿を現した。ジャスティンの不安を拭い去るには絶妙なタイミングだった。

ヒナはこうして、いつもジャスティンの心を捉えて離さないのだ。

「おはよう」ジャスティンはヒナの額にかかる柔らかな巻き毛にキスを落とした。

「もう朝?」と言ってふわぁとあくびをするヒナ。自分がどこでどういう状態でいるのか分かっていなようだ。

「どうかな?」

「一緒に寝た?」

「もちろん」ついつられて。「心配しなくてもいいぞ。今夜からはずっと一緒だ」

そこでやっと気付いたらしい。ここが我が家で、まだ夕方で、今夜からは誰に遠慮することなくべったり寄り添っていられることを。

「帰ってきたんだ」

ヒナがホッとするあまり泣き出したのは予想外の出来事だった。

つづく


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迷子のヒナ 213 [迷子のヒナ]

ヒナの帰宅で息を吹き返したバーンズ邸。

ホームズはヒナを見たこともない――ヒナも見たことがない――若い使用人たちを引き連れ、晩餐の支度と同時に、部屋のちょっとした模様替えに取り掛かっていた。

ホームズは当然気付いていた。ジャスティンが想いを遂げ、そして同時にヒナも想いを遂げたことを。

喜ぶべきなのか否か、ホームズには判断がつかない問題だった。けれどもあのような幸せそうな顔を見せつけられては、もはや道徳観念など捨て去るのが、主人に仕える身としての道理というものだ。

もともといかがわしいクラブの経営にも目を瞑ってきたのだ。いまさら、というものだ。

ヒナの誕生日のお祝いのためにキッチンで奮闘するシモンも、文句ひとつ口にしなかった。察しのいいシモンも気付いてしまったのだ。鼻歌混じりに鍋をかき回して、気持ち悪いったらない。
まったく。料理人ごときに悟られてしまうようでは、わたしの執事としての能力もたいしたことがないのかもしれない、とホームズは己を嘆いた。

「ジャスティン、戻ったって?」

ジェームズが地下通路から息を弾ませ現れた。クラブで旦那様が帰宅した事を知らされ、急いでこちらへ戻ってきたのだろう。

ホームズは報告が後回しになってしまったことを詫びつつ、今夜はヒナが十五歳になったお祝いをする旨を告げた。

ジェームズの白く美しい額に皺が寄った。驚いているのだろう。あの子はせいぜい十二,三歳程度にしか見えないのだから当然だ。

「今朝も手紙を向こうへ送ったが、無駄になったようだな。慌てて帰宅したのはグレゴリーと関係があるのか?」

ジェームズは旦那様がお坊ちゃまを保護している事を、あのお喋りなクロフト卿がグレゴリー様に告げ口した事をひどく心配していた。警告の手紙を何通も送り、早くニコラ様の屋敷から引きあげるように忠告していた。逃げ帰ったとしても、グレゴリー様との対峙は避けられないだろうが、せめて自分に有利な場所で戦いに挑むべきだ。なにせグレゴリー様は旦那様を震え上がらせる唯一の人物なのだから。

「さあ、どうでしょうか?まだ詳しい話は聞いていませんので……」

「いまどこにいる?」

「お部屋で着替え中です」そのはずだが、もしもという事もある。旦那様とお坊ちゃまがいつも以上に親密そうにしている現場をもしもこの男が見たら。そう考えただけで、背筋が凍る。ジェームズは旦那様を愛している。お坊ちゃまがやって来るずっと前から。

「そうか。おそらく手紙を読んで急いで戻ったんだろう。僕は書斎にいるから、ジャスティンが下へおりてきたらそう伝えてくれ」

「かしこまりました」と言ってホームズは、愁いを帯びたジェームズの背を切なげに見送った。

つづく


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迷子のヒナ 214 [迷子のヒナ]

「グレゴリーが来ただって?」

ジャスティンがこともなげに言うものだから、ジェームズは思わず大きな声を出してしまった。

「そうだ。お前の警告文よりも先にな。しかも裏からコソコソと侵入して、ヒナに近づきやがった」ジャスティンは長旅の疲れも見せず、留守中に届いた手紙に目を通し始めた。

「侯爵が妻の屋敷にコソコソと侵入?本当にそれは君の兄のグレゴリーの話か?」

にわかには信じがたかった。ジェームズの知るグレゴリーはジャスティンの数倍は融通が利かないし、となるとジャスティンがヒナを連れて帰ることも承知するはずがなかった。それなのにこうやって無事に帰って来られたのは、奇跡と言えるだろう。

「あいつに告げ口したのはパーシヴァルだろう?あの男も怖いものなしだな」ジャスティンはふんっと鼻を鳴らした。

「ええ、そうです。けどまさか、グレゴリーがそんなに早く行動を起こすとは思わなかった」
ジェームズは当惑していた。ジャスティンはもっとパーシヴァルに対して怒っていると思っていたのに――実際ジェームズは激怒している――軽く鼻であしらっただけで、どのような罰を与えるのかすら口にしない。まさか、このままあの男のしたことを許す気か?

「ヒナどうこうよりも、おれがニコラの傍にいるのが許し難かったようだ――」

パタパタと足音が聞こえ、ジャスティンは話を止めた。

「ジュス着替えた!あ。ジャム……ただいま」

遠慮なしに威勢よく飛び込んできたヒナだったが、ジェームズの姿を見とめるや、首根っこを掴まれた猫のようにおとなしくなった。しずしずとジェームズの座る革張りの椅子の前を通り過ぎると、ジャスティンにより近い場所に置かれた、小振りな椅子に腰をおろした。

ジェームズはヒナの横顔を見ながら言葉を返した。「おかえり、ヒナ。向こうでは行儀よくしていたのか?」

「してた」ぽつっと言い、同意を求めるかのようにジャスティンに上目遣いの視線を送った。

「ジェームズ、あまりヒナをいじめるな」ジャスティンが警告を発した。

いつものことだった。いつものことなのに、確実にいつもと何かが違っていた。ジェームズはヒナからジャスティンへ視線を移した。そしてまた、ヒナへと戻す。

見えないはずの何かが見えた。例えようのない空気がそこには存在していた。

それが何かに気付いた時、ジェームズはもはやこの場で同じ空気を吸う事すら耐えられなくなった。

毅然と立ち上がり――よろめかなかったのが不思議なくらいだ――いつもの無表情の仮面をかぶりあとじさる。

「ヒナおめでとう。ジャスティン僕はクラブに戻るよ。晩餐のあと時間があれば続きを話そう」

時間などあるはずがないと知りながら、ジェームズは言った。

つづく


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迷子のヒナ 215 [迷子のヒナ]

ジェームズが部屋を出ると、ヒナはじわじわとジャスティンににじり寄り、とうとう膝の上に乗ってしまった。

「ヒナ、邪魔だ」口先だけの言葉。ヒナもそれを承知しているのか、くすくすと少女のように笑うだけで、手紙を読むジャスティンの視線をすっかり自分のものにしてしまった。

どうせジェームズが一度目を通した手紙ばかりだ。いまさら再確認する必要はないだろう。問題があれば手紙を手にする前に何か言ったはずだ。

ジャスティンは手紙を放り出し、ヒナをしっかりと抱いた。見上げる幼顔にキスの雨を降らす。ヒナは擽ったそうにしながらも、仕返ししようと躍起だ。

ジャスティンは仕返しを甘んじて受けた。甘美で心が和む最上のキスだった。

二人はしばらくたわいもない話で時間を潰し、お腹が空いたところで食堂へと向かった。晩餐は二人だけだった。ジェームズが顔を見せない事にヒナはがっかりしていたが、クラブにパーシヴァルが来ていると聞いてそれも仕方がないとジャスティンは納得した。

あの男の行動を逐一把握し、余計な事をしようものなら力でもってねじ伏せなければならない、というのがジャスティンの考えであり、ジェームズの考えでもあった。

両者の意見は必ず一致している。お互いが言葉を交わさずとも、考えを違える事はない。

「お坊ちゃま、これはリゾットというものでございます」

ホームズがヒナの前に、ポリッジのような代物を差し出し言った。

ジャスティンはポリッジが嫌いだった。吐き気がするほど。

「リゾット?」ヒナが訊いた。

「さようでございます。ハムとマッシュルームのチーズリゾットだそうです。シモンがお坊ちゃまの誕生日のお祝いに、腕によりをかけてこしらえたものです」

「おかゆみたい」とヒナが言ったが、ジャスティンは『おかゆ』というものを知らなかった。日本語でポリッジはおかゆと言うのだろうか?

「まねたようですよ」とホームズ。

ヒナが心得顔でスプーンを手にして、躊躇うことなくリゾットを口に運んだ。「美味しいっ!」と頬を震わせ、次の一口をスプーン山盛りすくう。

ヒナはあっという間にリゾットを平らげた。ジャスティンはあっけにとられつつも、自分もリゾットに挑戦してみたが、ふやけたようで生煮えのような食感がどうにも許せなかった。

美味しいと判断したヒナの味覚に疑問さえ浮かんだが、これまでヒナの日本での食生活について一度も考えが及ばなかったことに罪悪感が芽生えた。

これからはヒナが何を望み、どうしたいのかをもっと聞き入れなければならない。そうすることで二人の関係がよりいいものになり、一生のものとなり得る、そう思えてならなかった。

つづく


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迷子のヒナ 216 [迷子のヒナ]

ジュス、遅いなぁ……。

『ヒナ、今日中に話しておかなければならない事があるから、先にベッドに入っていなさい』

ジャスティンがそう言ってジェームズの元へ行ってから、もう二時間は経っている。その間にヒナはお風呂に入って、ホームズがプレゼントしてくれた新品の寝間着に着替え、それからシモンがくれたいい匂いのするクリームを耳の裏側につけて、ベッドで待っていた。

目がしょぼしょぼする。早く来てくれないと、眠っちゃう。

ヒナは上掛けの中に潜り込んだ。

ちょっとだけ、と目を閉じ……。

そのまま朝を迎えてしまった。

目が覚めて、ベッドに一人じゃない事に安堵した。ジャスティンの逞しい腕がヒナに絡みついている。その重さが心地よかった。頭の上の方で聞こえるジャスティンの息遣いに、例えようのない幸せを感じながら、ヒナは部屋の中をうろつくダンとウェインの姿に目を留めた。

ジャスティンに抱かれて眠るのも、その姿を誰かに見られるのも、もう馴染のものになってしまった。もぞもぞと身体を動かすと、ジャスティンにぎゅっとされた。

「もう起きるか?それとも、あいつらを追い出すか?」

耳元で囁かれ、ヒナはとろけそうになった。ジャスティンの寝起きの第一声はいつも掠れている。

返事はもちろん――

「まだ起きない」

つまりはダンとウェインを追い出すという事。

ジャスティンは一も二もなく二人を部屋の外へ追い立てた。呼ぶまで来るなと念を押し、ヒナの耳朶にかじりついた。

「いい匂いがする」

耳の裏に鼻をこすりつけられて、ヒナは喘いだ。「シモンが、くれた」と息も絶え絶えに言い、ジャスティンにめいっぱい身体を押し付けた。

「シモン?朝から聞きたくない名前だな」と言って、ヒナをいとも容易く反転させると、鼻先にキスをした。「おはよう、ヒナ」

「お、おはよぅ。ジュス」

つい唇に目がいき、ヒナは恥ずかしくて顔をうつむかせた。あまりにも物欲しげに見つめてしまう自分の欲深さに戸惑いながらも、それが当たり前のような気がしてならなかった。

「どうした?ご機嫌ななめか?」ジャスティンが思案顔になった。

「昨日、待ってたのに」寝ちゃったけど。

「悪かった。ちょっと話が長くなってな。でもこうやってちゃんと一緒に寝ただろう?」

ヒナの頬にジャスティンの手がそっと置かれた。ヒナは自然と上を向き、ジャスティンに照れくさそうな笑みを向け、軽く頷いた。

納得の返事。そもそも長くなったという話は、ヒナに関する事なのだ。あれこれ言って、ジャスティンを困らせたくない。というのが、おとなになったヒナの考えだった。

「じゃあ、これは昨日のぶん」

ジャスティンの唇がヒナの期待に応えおりてきた。昨日の分という事は今朝の分と合わせたら、いったいどんなことになってしまうのか。

不埒な事を想像しながら、ヒナは精一杯キスを返した。

つづく


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迷子のヒナ 217 [迷子のヒナ]

ヒナは興奮しやすく、それでいて相手を――ジャスティンを――その気にさせるすべを心得ている。

「珍しく寝間着を着て寝たんだな」

寝間着の裾をたくし上げ、そこから手を入れて、なめらかな背中をそっとなでた。下穿きを穿いていないことに気付いたが、ひとまず気付かない振りをすることにした。

「ホームズがプレゼントしてくれたから」

「それで、おれに脱がせてもらおうと?」ちゃかして言ったが、期待が込められていたのは言うまでもない。

「うん」と、いたって素直なヒナ。これでは狼に食べて下さいと懇願しているようなものだ。

まったく。ホームズのやつとんでもないプレゼントをしたものだ。今朝はおとなしくしていようと思っていたのに、意思を持った手が勝手にヒナの身体を味わい始めた。

痩せすぎの背中は骨が浮き出ているが、そのひとつひとつが愛しくてたまらない。指で辿るたびに、ヒナはしがみつく指先に力を込めて、甘いデザートを食べた時と同じような至福の吐息を洩らす。

ヒナにキスをせずにはいられなかった。半分ほど開いた口に舌を滑り込ませるのは容易かった。また、シモンがくれたという香りが鼻腔に侵入してきた。これからはこの香りを嗅ぐたびに、いちいちシモンを思い出すのだ。悪態を吐きたい心境だったが、忌々しい事にヒナにぴったりの香りだった

目覚めた時から石のように硬い昂りが、ヒナの柔らかな太ももに突き刺さっているが、コレでヒナを味わうのはもう少しあとにしなければならない。ひとまず面倒なことが済むまでは。例えば、今夜あたりといったところだろうか。

それでもヒナとこうして戯れるのをやめられないのは、自分が愚かな証拠だ。きっと図々しい使用人が聞き耳を立てているに違いないのだから、今すぐにやめるべきだ。

「……っふ、く」

ヒナが溺れかけのような声を漏らした。脱力した身体からは誘惑の芳香が立ちのぼっている。
ジャスティンは眩暈を覚え、舌で味わい征服する悦びに胸を掻きむしりたくなった。そのうち立場が逆転して、ヒナに好き勝手暴れられようとも、そうするだけの価値がある。

「ヒナ、もう少しだけ」と口元で囁き、忘れそうになっていた今朝の分のキスを頂くことにした。

つづく


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迷子のヒナ 218 [迷子のヒナ]

結局だらだらとベッドの中で時間を過ごし、朝食か昼食か分からない時間帯に食事を済ませたジャスティンとヒナは、午後、静かな図書室で机に向かっていた。

「明日、ミスター・アダムスは何時に来る予定だ?」ジャスティンは午前中のうちに届けられた一通の手紙を怪訝な顔つきで見ながら、家庭教師のやって来る時間をヒナに尋ねた。

「二時」

ニコラへのお礼の手紙に悪戦苦闘しているヒナは、気もそぞろに答えた。アダムス先生はいつも午後二時にやって来ると決まっている。

「二時か……」思案げに呟く。「それなら間に合いそうだな」

やっとのことで手紙を書き終わったヒナは、ぎくしゃくとペンを置いた。「なにが間に合うの?」

ジャスティンが投げ出すようにして手紙を置いた。ヒナはそろそろと手を伸ばして、手紙を取った。小さくてとても美しい字がヒナの目に飛び込んできた。自分がたった今書いた手紙と見比べ、あまりの上品さに、ヒナは奇妙な敗北感を味わう事となった。

「弁護士さんに会うの?明日」

「ああ、事務所に来いだとさ。時間はこっちの都合に合わせるらしいが、ずいぶんと傲慢な弁護士だ」ジャスティンは不快感も露に鼻を鳴らした。

「いやなひとなの?」こんなにきれいな字を書く人なのに?とヒナは思った。

「かもしれないな。なにせグレゴリーが手配した弁護士だ」あいつは弟に嫌がらせをすることに、無上の喜びを感じるひねくれたサディストだ。とジャスティンは心の中で付け加えた。

ヒナはグレゴリーのような弁護士を想像して、思わず身を震わせた。

「ヒナ、ペンと紙を貸せ」

ジャスティンはヒナから紙とペンを受け取ると、カリカリと紙が破れてしまいそうな勢いで文字をのたくらせ、声を張り上げホームズを呼んだ。

手紙はすぐさま弁護士の元に届けられた。日曜日なので事務所は閉まっていた。ホームズから手紙を託された若く見栄えのいい使用人は、弁護士の自宅まで赴き、多少の紆余曲折を経て、無事本人の手へと手紙を渡すことが出来た。

そして明日の午前十一時、ラッセルホテルのラウンジで弁護士と会う事に決まった。

かなり込み入った話し合いになるのは想像できたが、周囲から隔離された席を今日のうちから予約しておけば問題ないし、なにより、ヒナがデザートの盛り合わせが食べたいと言ったことが、公の場を選ぶことになった最大の決め手だった。

ヒナの考えでは、おでかけ、イコール、デザートらしい。

つづく


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迷子のヒナ 219 [迷子のヒナ]

「いつもあんな使いにくいペン先を使っているのか?」

「ん?」ヒナは何のことだろうかと、髪を乾かす暖炉の前で振り返った。伸びた前髪の毛先が目をつつき、じんわりと涙が溢れてきた。「ジュスぅ……目に…」哀れっぽい声を出し、ジャスティンに助けを求める。

「だから任せておきなさいと言っただろう?」ベッドの上でヒナが髪を乾かす姿を眺めていたジャスティンは、それ見た事かと呆れた溜息を洩らした。それでもヒナのそばまですっ飛んで行き、胡坐をかいた膝の上にヒナを乗せると想像もできないほど繊細な手つきでブラッシングを始めた。

ついつい寝入ってしまいそうなほど心地よいブラッシングに、ヒナはほうっと息を吐いた。

「ジュス、前髪切って」伸び放題の髪の毛はヒナがここへ来たときから一度もカットされていない。巻き毛でなければヒナの前髪は、もう胸元まで伸びていてもおかしくはない。

「髪を切る?」ジャスティンは手を止め、髪を切るという行為に対して明らかな難色を示した。

「ヒナもライみたいに、おでこのところで髪をそろえたい」ヒナは訴えた。

「おでこで髪をそろえる?」気でも違ったかと言わんばかりの声。「ヒナの髪では無理だ。ライナスの髪はおおむねまっすぐだし、ヒナほど綺麗じゃない」

いったいジャスティンは何を言っているのやら……などとヒナが疑問を抱くはずもなく。

「ライの髪はふわふわで綺麗だったよ」

「ふわふわで綺麗かもしれないが、ヒナほどではないという事だ。もったいなくて切れるかっ!」自棄気味のジャスティン。もったいないの意味もよく分からない。

「じゃあ、ヒナの目に髪の毛が入ったらどうしたらいいの?」

「耳に掛けておきなさい」頑固なジャスティン。

「でも……」と、ヒナも譲らない。目をごしごしとこすり、伸びすぎた前髪が及ぼす悪影響をアピールする。

「わかった、わかったからヒナ。そうだ。明日、ヒナの髪にぴったり合う髪飾りを買いに行こう。それで留めておけば問題ないだろう?」

必死過ぎるジャスティンの提案に、単純なヒナはすぐさま食いつく。

「髪飾り?お母さんがしてたみたいなの?」

「お母さんがしていたみたいなのがいいのか?それなら、同じようなのを探してみよう。だから今夜は、リボンで前髪を留めておこうな」愛おしげにヒナの髪を指で梳き、巻き毛のひと房を口元に持っていった。

「ヘアキャップをかぶらないとダンに怒られちゃう」ヒナが怯えたように言う。

ジャスティンは髪にキスをして「怒ったらクビにする。だから大丈夫だ」と噛みつくように言った。

「クビにしないで。ヒナ、ダンがいないと困る」

ジャスティンの瞳が嫉妬でぎらついた。それでもヒナの望みとあらば、ダンは決してクビには出来ない。

「さあヒナ、髪は乾いたから、ベッドに入ろう。夜は長いが――あれこれしているうちに、あっという間に過ぎてしまう」

「まだ九時だよ」とヒナは指摘せずにいられなかった。それからジャスティンの最初の質問を思い出し、「ライに貰ったの」と唐突に答えた。

案の定ジャスティンは、何のことかわからず目をぱちくりとさせた。

つづく


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迷子のヒナ 220 [迷子のヒナ]

ヒナと甘い雰囲気になるのはそう楽なことではない。

明日のお出掛けに興奮したのか、ヒナのお喋りは止まらない。キスひとつさせてはくれないのだ。

枕を背にベッドに座って、身振り手振りを交え熱心に口を動かすヒナ。その口を少しだけ、隣でただじっと座っている健気な男の為に動かしてくれれば、と思わずにはいられない。まったく、こんなに目をキラキラさせて。押し倒さずにいるのに――ほとんど横になっているのでたいした手間ではないが――どれだけの自制心を働かせているのか、ヒナにはわからないだろう。

やっと話がひと段落した。ヒナはのどが渇いたのか、ベッドサイドに置かれたピッチャーに手を伸ばした。

ジャスティンはここぞとばかりに口を挟んだ。

「じゃあ明日は、その、お月様が半分になったという櫛を買いに行こう」

おそらくヒナの言う髪飾りは、写真の中のアンの頭に刺さっていたアレだろう。ちょうどそのような髪飾りを手に入れるにふさわしい店がホテルの傍にある。弁護士に会う前に寄り道する時間を作ろう。おかげで明日はちょっと早起きになってしまうが、ミスター・アダムスが明日どうしてもやって来ると言うのだから仕方がない。ちょっとやそっとヒナの勉強が遅れたからといって、それがなんだっていうんだ。すでに一週間は遊びほうけているのだから、いまさら一日くらいどうということもないのに。

「ありがと……ジュス」

喉を潤したヒナが、とうとう擦り寄って来た。胸のあたりに腕を回し、そっと身を預け、がくんと頭を垂れた。

これはよくない兆候だ。

ヒナがむにゃむにゃと何事か呟いた。明らかにヒナは寝ようとしている。

夜はこれからだというのにっ!

「ヒナ?」

「……ん?……なに?」舌がもつれたようにのろのろと返すヒナ。ついさっきまでの勢いはどこへ行ったんだ?

「もう寝るのか?キスもせずに?」その他アレコレもせずに?と心の中でぼやく。

「……まだ、寝ない」と言いつつも、目は半分ほど閉じている。

どうやらまたしても寝こみを襲う事になりそうだ。明日まで待てばいいだけの話だが、待てない事情がジャスティンにはあった。弁護士との面会がジャスティンを不安にさせていた。自分勝手だとは重々承知している。けれどもジャスティンはもっともっとヒナとの繋がりが欲しかった。

「たまにはご褒美が欲しい」掠れ声で言うと、ジャスティンはヒナの唇を自分でも想像しなかったほど荒々しく奪った。

驚いたヒナが眠りから瞬く間に引き戻されたのは、言うまでもない。

つづく


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